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ムーンショット型研究開発事業 [目標7] 慢性炎症の制御によるがん発症ゼロ社会の実現

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プロジェクト

プロジェクトの概要図

プロジェクト概要

本邦のがんの罹患率・死亡率は年々増加傾向にあり、その克服は医科学、生命科学のみならず日本社会全体の喫緊の課題となっています。 これまで一部のがんでは、その発症にウイルス、H.Pylori等の細菌、炎症性腸疾患等の慢性感染および慢性炎症が関わることが解明され、 その一部に対して抗微生物薬・抗ウイルスワクチン等による発がん予防が進められてきました。近年、「炎症」に関する理解が進むにつれ、 加齢に伴い多くの組織に慢性的な炎症が惹起され、虚血性心疾患などの非腫瘍性疾患のみならず発がんにも寄与することが明らかになりつつあります。 さらに肥満、糖尿病等が慢性炎症を引き起こして発がんに関与することも見出されており、慢性炎症はほぼ全ての発がんに関わっていると言っても過言ではありません。 従ってがん細胞の起源となる遺伝子変異に加えて、それに対する宿主側の免疫応答である炎症の包括的な理解ががんの予防・早期発見には必須であると考えられます。

しかしながら、発がんへの慢性炎症の関与が示されつつある一方で、同じ慢性炎症でも発がんに至る場合と至らない場合があり、その決定メカニズムは謎のままです。 慢性炎症から発がんに至るトリガーは何なのか、発がんを促す炎症と発がんを抑える炎症のような違いがあるのか、などの重要な課題は依然解明されておらず、 発がんに関わる慢性炎症の本態解明はがん予防・早期発見のキーになると考えます。従来のがん研究では、がんの病態を一場面一時点で切り取り、 かつ特定の細胞に着目して解析することがほとんどであり、炎症=>前がん状態=>発がんへの時間的変化を空間的な相互作用も含めて検討することは十分に実施されてきませんでした。

本研究開発では、炎症=>前がん状態=>発がんへの変化をマルチスケール(免疫、ゲノム、エピゲノム、代謝などのパラメーター)で解析し、 時間的変化についても時系列の検体解析に加えて、数理モデルによる予測を融合することで発がんに至る慢性炎症の本態を解明し、先制医療、超早期がん医療を達成することを目的とします。

ここでは、がんと診断されるまでの炎症の持続とそれがもたらす細胞内変化を

  • レベル1:炎症から前がん状態へ移行するミクロの動態変化
  • レベル2:粘膜や上皮などの体細胞レベルや個体レベルに変化が生じる前がん状態のマクロの動態変化
  • レベル3:炎症から前がん状態へ不可逆的に変化して発がんに至る変化

の3段階に分けて捉えることとします。本研究開発では、免疫学・ゲノム遺伝学・エクソソーム生物学・数理統計学・応用物理学・分析化学の各分野における 国内および米国のエキスパートチームによって融合研究領域を立ち上げ、それぞれの専門的視点から検討し、それらを統合した炎症=>前がん状態=>発がんの 包括的解析基盤を樹立し、レベル1から3へと発がんに至る慢性炎症の本態を解明します(下図)。

プロジェクト概要図2

取り組む課題

  • 課題1:炎症の起因となる細胞内の免疫応答関連シグナルとその維持機構の解明
  • 課題2:前がん状態から発がんのプロセスに影響を及ぼす宿主要因、環境因子から超早期にがんを検出するバイオマーカーの樹立
  • 課題3:慢性炎症に伴う発がんにおける、がん起源細胞の同定とゲノム変異の系譜の解析
  • 課題4:異なる炎症に伴って構築されるがんの起源細胞の周囲の微小環境の比較
  • 課題5:炎症の起因やがんの起源細胞を超早期に高感度で識別するデバイスの開発
  • 課題6:前がん状態のがんの起源細胞を標的とする新規予防法、治療法の開発
  • 課題7:各組織、臓器において、炎症から発がんに至るまで時空間動態を予測する数理モデルの構築
  • 課題8:前がん状態の生体検体の経時的な集積、解析による大規模データベースの構築